咲き誇れ。

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お兄ちゃん、ガチャは何だったのか

まさか最終回を見終わった後にこんな記事を書こうと思うとは、始まる前は思っていなかった。けれど1話を見終わった辺りから薄々思っていた。このドラマは、ヤバいやつかもしれない…。そう、脚本はあの野島伸司だったのだ。

物語は、奔放な家族にうんざりした主人公ミコが、メルヘンな生活をしたいとバレエ教室に通いだすところから始まる。そこで出会ったお金持ちのお嬢様ナツコは、ミコ、その友人のヨツバにお兄ちゃんガチャの存在を説明する。あるゲームセンターで500メダルでガチャを引く。ガチャの中身をお風呂に一晩つけておくと、それぞれランクを持ったお兄ちゃんが生まれる。気に入れば本契約をして、本人と家族の記憶はもともとお兄ちゃんがいたかのように改竄される。気に入らなければ消去。迷っている間は1週1000メダルでキープ。

目につくのは、徹底的に現実味を排除したファンタジーの世界。ナツコがキープしている5人のお兄ちゃんズも台詞をミュージカル調に歌い踊り出すという非現実の究極のような設定。

生々しさの全くない異世界で汚れない真っ白いレオタードを着た女の子達から発せられる言葉。ドラマの中でその言葉たちだけが異様に生々しく、現実の世界を鋭く描写している。世界観がファンタジーだからこそ、一層際立った本当の社会の恐ろしい現実を否応なしに突きつけていく演出が憎かった。

彼氏でもない、夫でもない、そして恐らくお兄ちゃんでもない「ガチャ」。自分を守るためだけに生きるお兄ちゃんガチャという存在は、現実では絶対に有り得ない。それには恐らくミコ達、というより女性の欲望の全てが詰め込まれるべきなのだ。そんな彼らに、ミコやナツコは自分の欲望を隠すことなく突き付け、欲望を満たせないガチャは容赦なく切り捨てられる。

ナツコはお嬢様で、金に物を言わせて5人のガチャをキープし続けるというと一見非情にも見えるだろう。それでも、固定した5人のお兄ちゃんズを数々のわがままで困らせては試し続けているのは、子ども特有の幼さと甘えが見えてまだ子どもらしい。対して、家族のために献身的に働き、友人思いの、誰が見ても優しいと言えるミコは、どんどんガチャを引いては些細な理由で切り捨てていく。もちろん、本当は最初に引いたトイにお兄ちゃんになって欲しいのに叶わないから、という理由はある。でも、ミコのこのガチャに対する冷徹な扱いを見ていると、これこそが「一番女っぽい」と思ってしまうのが正直なところなのだ。

その場でどんなに思い入れのあるような素振りをしても、ガチャを一つ選ぶ=他は選べないという選択を迫られるとあっさりと手のひらを返す。一度決めてしまったら、消去をする時にはガチャに未練も何もない。消去という選択をする前に死んでしまったロードでさえ、新しいガチャを再生させる頃にはミコの心の中にはいない。

トイがそんなミコを見て度々漏らす「女って怖い」という発言は、きっと全男性、いや全人類?の心の声の代弁だろう。だって、女の私でさえ、そういうミコを見て怖いと思うと同時に、自分の根底にもそういう部分が確かにあることを確信するのだから。一見、いやきっと本当に優しく、まだ幼いミコでさえこんな一面を持っているというのは、おそらく女性の、というより男女関係なく人間の真理なんじゃないかと思わせられる。ナツコのような素直で幼い部分も、亡くした家族をいつまでも大切に思うヨツバのような部分も、最終的に友達を想いトイを手放すミコのような部分も、そしてこのドラマで露にされる冷徹非情な部分も、同時に嘘偽りなく持っているのが、私たちなのだ。

物語としては、ミコはトイへの想いを募らせていって、再び繋がった実の兄弟の幸せを願い、一人で辛い想いを封じ込めようとする。結末でトイとヨツバは無事兄弟になり、ミコは自分のことを忘れてしまったトイを茫然と見送る。

さて、これはミコにとっての悲劇なんだろうか?もしトイが本当のお兄ちゃんになってくれていたら、それはハッピーエンドなのか?そもそもお兄ちゃんガチャが、本契約をし薬を飲んで記憶ともどもお兄ちゃんになるとき、そこにいるのは本当に妹が望む、自分の欲望を詰め込んだお兄ちゃんなのだろうか?

もしもミコがトイと本契約をし薬を飲んだら、きっとそこにいるのはトイではない。妹にとっては当たり前にいる家族で、お兄ちゃんは普通に自分の人生を歩んでいく普通の人間になるだろう。でも物語では、トイは最後までSランクの妹想いのガチャだった。運命に抗えず、ミコのお兄ちゃんにはなれないと知っていながらも、ミコに自分以外の最良のお兄ちゃんを見つけようとし、ずっとミコを守り続けてきた。トイを選ばなかったミコにとって、トイは永遠に最高のお兄ちゃんガチャで居続ける。

ナツコの場合もとても興味深かった。こちらもやっぱりお兄ちゃんを現実にする、つまり契約するという選択をした途端、出てきた問題が「跡取り」。なんとも現実的で非情な話だ。

お兄ちゃん、ガチャとは何だったのだろう。普段取り繕っている化けの皮がガチャという存在によって剥がされ、人の欲望が次々と露にされる話だったなと思う。同時にそれが現実では決して満たされない欲であるという現実も、嫌というほど突き付けていった。

最後にミコはSSランクのガチャに出会い物語は終わる。「私のお兄ちゃんになってくれますか」と迷いもなく言ったミコの心に、きっともうトイはいない。だってトイはもう私のお兄ちゃんにはなってくれないし、こっちのガチャはSSランクだし。それまでトイを想ってどんなに泣いても、それに周りの人(視聴者?)がどんなに同情しても、手に入らないなら関係ない。そうやって女性は強く生きていくんです、きっと。